かわせみ側溝から

志は低空飛行 

恨みつらみが面白い  女二人のニューギニア ☆☆☆☆

女二人のニューギニア有吉佐和子著(河出文庫 ☆☆☆☆

 

 

 

 文化人類学者の友人である畑中幸子に誘われて、子供のころに父の転勤で暮らしたことがあるインドネシア滞在後に、足を延ばしてニューギニアに遊びに行く。ところがこれがとんでもないところで、さらにセスナで飛んで小さな空港に降り立ち、車の通れないジャングルを、三日かけて歩かなければならない場所だった。とにかく前半というか、半分くらいは、この行きの道中の過酷さと、恨みつらみというか、どうしようもない後悔の記録なのだ。ともかく行かないことには、道中のジャングルで死に絶えてしまうだろう。日中の猛烈な暑さも、ジャングルの鬱蒼とした木々の中などで、なんとかなるものの、道は道なんてものでは無く、滑り落ちたりよじ登ったりの連続なのである。東京暮らしでは、作家としてまったく運動すらしたことのない女性の体力の範疇を、軽々しく超えている。また、噛みつくのでふれてはならないキノコがいたり、得体のしれない虫に噛まれたり、蛭に吸い付かれたりする。そうしてもう少しのところで、まったく動けなくなり気絶し、木の棒に縛り付けられて現地の男たちに担がれて、やっと畑中のフィールドワークの小屋にたどり着くのだ。

 足の爪は剥がれ落ち、体力は消耗しすぎて、とてももう体を動かせる状態ではない。ほんの一週間くらいのつもりで出かけてきたが、そのままジャングルの中で、一ヶ月も足止めを食らうことになる。靴を履いて歩くことができないので、そのジャングルの真ん中で、畑中がやりたいフィールドワークそのものを見ることすら叶わない。仕方がないから得意でない料理をしたり、現地の人にプレゼントするために、そこにあった生地を仕立てて、パンツを縫う毎日だ。しかし冷蔵庫も無い場所だから、食べ物は缶詰のコンビーフと、畑中が種を植えたトマトなどの野菜くらいしかない。野ブタの肉をもらっても、数日しか持たないし、何しろ硬すぎてうまく調理ができない。

 いちおう働いてくれる現地の人を使っていたり、オーストラリア政府から派遣されている、拳銃を持ったポリスという現地の男たちがいたりはする。しかしニューギニアの奥地では、女は野豚三頭と交換できるくらい地位が低い(畑中談だが)。現地の男たちを怒鳴り散らしてなめられないようにしてはいるが、しかし心の中ではびくびくしながら対応する。

 しかしながらこのままでは、とても帰ることができそうにないところに、奇跡が起きて……。ということになるのだが、やっと日本に帰ってきたが、今度はマラリアにかかっていたことが分かり、繰り返し起こる高熱などに襲われ、その合間に遺書を書いたりするのだった。

 とにかく壮絶なのだが、これがまあ笑えるのである。その悲惨な体験を、実にその後悔と自分の思慮の無さと軽々しさと、そんなところに行くことを止めてくれなかった周りの人達に対する怨念とともにつづられていて、ただそれが繰り返し語られるのだけれど、面白いのである。こんな経験だけは本当にしたくないものだと、読みながらしみじみと同情はするものの、やはり貴重な経験には違いなく、羨ましくもなんともないが、文化人類学のために奮闘する日本の女性が、このようにして現場で研究をしているのだという尊さに、敬意を抱く訳である。有吉は、その研究に関しては一切かかわらず、その研究のためにいつもイライラして激怒している畑中の姿を、客観的に描くのである。まあ、ほんとに大変なんである。これは普通の人間には成し遂げられないことなのであろう。

 ということで、やっぱり作家の書く奇行ものというのは娯楽だな、という読書体験だった。