かわせみ側溝から

志は低空飛行 

こんなことが起こるのか!   キャッシュとディッシュ

 

キャッシュとディッシュ/岡崎祥久(文学界20:8月号) ☆☆☆

 本では無いが、小谷野敦が特別に「小谷野賞」を授けた作品で、読んでみた。

 主人公は50歳で製麺工場で働いている男の、ほとんど独り言のような展開。人間関係も希薄だが、しかしほのかに想っているらしい人もいるような感じではある。もちろんほとんど接点さえ持てないようだが。弟がいて、ある時おじさんが死んで、その周辺の処理を全て済ませ、数百円だけ赤字が出たので、兄と折半するか、と、もちかけられる。形見の品はお皿が一枚。借金の半分を持たない代わりに皿をもらうことにする。そうして日頃の金銭の苦しいやり取りの生活の事とか、しかしそれ以外に対して何も起こりようがない、人生の底辺にある男の暮らしぶりが語られる。そうして形見でもらった皿を頭にのせると河童みたいだとか遊んでいたのだが、その皿には実は不思議な力があって……。

 ギャンブルの話があったり、その幻想的な場面なんかも印象に残るのだが、それがいったい本当の話なのかは読んでいて自信が持てない。日々のあれこれにおいてお金に苦しめられている男がいて、普通に暮らしているはずが、いくつも落とし穴が待ち受けている。なんとか静かに計画的にやり過ごそうと努力してはいるのだが、時給はわずかばかりあがると上司から言われるが、その時給が上がる前に、たくさんの残業をさせられてしまうのである。

 何か社会への怒りのようなものをぶつけているという事ではない。必死さはそこまで感じられないものの、何も悪いことをしていないにもかかわらず生活は質素であっても、なんとなく苦しんでいる社会の底辺の中年の男の話だ。それに、はっきりって出口が無い。語りがユーモラスなので状況が悪くなっていっているのに、なんかまだ楽しむ要素が起こるのではないかと期待したりしてしまう。しかし内容はかなり恐ろしいことになっていくのだった。

 変なものを読んじゃったなあ、というのが正直なところだ。確かに面白いのだが、こういうのが文学なんだろうな、とも思う。いろんな作家さんがいろんな作品を書いていて、現代ではそれを全部読むなんてことは事実上不可能になっていて、しかし話題の本だからと言って、それを全部読む人なんてのもほとんどない事だろう。そういう中で創作がなされていて、雑誌が作られて、ネットでもいいが、読んだり読まれたりの関係が、大なり小なり続いていく。そういうものだ、と言われればそうかもしれないが、それ自体が、ずいぶん不思議なことのようにも思われるのだった。読後感がそれでいいのか分からないけれど、こんなことが無ければ、読まなかった作品であろう。