
幸せの答え合わせ/ウィリアム・ニコルソン監督
結婚29年目を迎える夫婦だったが、妻は気難しいところがあって理屈家で、夫はずっとその言動に戸惑い続けて疲れていた。そんなときに離れて暮らしている息子が遊びに帰って来るのだったが、その晩やはり大ゲンカのようなことになり、翌日実は夫は不倫している愛人のもとに行く、と言って出て行ってしまう。確かに妻は夫に向かって様々な要求をして戸惑わせていたことは理解していたが、それは夫婦間の事であって、基本的には深い愛情が二人にある限り、これまで通りずっと一緒に暮らせていたはずだと悲しみに暮れる。失ってしまったかもしれない愛の深さに、妻は戸惑い困惑に包まれる訳だ。そういう両親の間に立って、一緒になって苦しみを共有する息子がいて、互いの本音を聞いて、互いの気持ちもよく分かるからこそ、その溝の深さに苦しむことになるのだった……。
一昔前なら、これは妻が出ていくのが普通の物語のはずである。家の中で暴君としてふるまう夫に疲れて、長く連れ添った歴史に終止符を打つ妻というのが、一般的なこれまでのありようである。それがまるっきり形を変えて、性別が逆になり、そうして極めてリアルである。妻の言動は行き過ぎているが、それはいわば普通の妻の夫に対する不満でもあって、ありふれてもいる。優しい夫であるが物足りないところもあって、いつも受け身で本当に自分の望むことなんて理解していない。そうしてつい言いすぎてしまって、酔った勢いがなどが付くとさらにエスカレートしてしまう。そうして夫はこのいつものことに疲れ果てていて、実は前々から徐々に進行していたもう一つの安住の地に、とうとう逃げて行ってしまうのだ。妻への愛情は嘘だったわけではないのだが、本当に疲れ果てて、そういう気を使う必要のないところに、逃げ出してしまうより選択が無かったのだ。
面白い映画というのではないかもしれないが、この展開も含めて、息子を含めた会話劇が、なんとも言えない悲喜劇を描き出している。いわゆる架空の話であるはずだが、奇妙なリアルさが漂っている。お茶を飲んだりアイスクリームを食べたり、崖の上に佇んだり、車を運転したり、そういう日常的なものが、なんとなく意外で、しかし本当の話めいている。皆の演技もしっかりしていて、英国人の風刺も効いている。こういう作り物の演劇文化は、やはりあちらの方が、歴史や背景がしっかりしているのかもしれない。