
母とは一緒に暮らしながら、生活パターンなども違うし、そもそもそれなりに疎遠になってはいた。そういう中にあって選挙になると、ますますその距離は離れていくような感じになっていった。期間中は朝から街頭で手を振らなければならないので、母が寝ているうちに家を出る。いや、考えてみると平日ご飯を食べて、出勤時に母が起きている方が稀なので、それは習慣的には変わらないことかもしれない。街頭朝立ちをして、そのまま出勤することもあるが、一度自宅に戻り、食事など整えてからという日もあった。そうすると母が食卓で遊んだように食事していることもあって、やあやあ、ということになる。母から「お先に食べて失礼します」と言われる。食べてもらって何の問題も無いし、そうおっしゃいませんようにと言うけれど、我々の挨拶は非常に慇懃に丁寧になされるようになっている。いったい僕のことを誰だと思っているのだろうか?
やっと日常に戻って食卓を囲んでいると、僕がいることで、なんとなく気まずいような空気が流れる。僕ら親子は二人ともよくしゃべるので(つれあいは、相槌を打ってくれるのであるが)、片方がしゃべらなくなると、その隙をついて一方的な話になる。僕としては、別段気まずい訳では無いが、さすがにいろいろと疲れたし、考えることもある。そういう空気感で黙っていると、なんとなく勝手が違うことになってしまうのか、つれあいから話を促されたりしている。しかしどうにも何にも話したくない。心の傷と言っては何だが、頑張った人間というのは、それなりに思うところがある。もちろんそんなことを言うと、つれあいだっておんなじことなのだが、母との関係を思うと、なにか僕が話すべきなのであろう。それで「こんばんは」とか何とか食事の途中で挨拶をすると、やっと元気になって母が語りだすことになった。きっかけというのはあるのか、それからはなんだかわからないが、話が爆発して止まらなくなっていった。もちろん聞いたことのあるものばかりなのだが、その話のつながりに何の脈略も無いものがこんがらがっていて、なんの知っている話なのか予測がつかない。そうして歌を歌ったりなんかもして、大変な騒動になっていったのだが、やっぱり僕としても、気分が乗らないままだし、見ていて呆れる思いもするが、まあしょうがないので、静かに飲むよりないのである。お通夜よりもましか、ということで、母からの励ましということにしておこう。