
ドリームプラン/レイナルド・マーカス・グリーン監督
原題はキング・リチャード。ビーナスとセレーナという二人の偉大なテニス・プレイヤーを育てた父親の伝記映画である。二人の活躍は近年の女子テニス界を圧倒したので誰もが知るところだろうが、アメリカはともかく、日本では父親の存在なんてそこまでは知られていなかったのではなかろうか。それとも僕が知らなかっただけかな。しかしながらこの作品を観てぶっ飛んでしまった。なんという無茶苦茶な暴君父親だろう。そこで原題をあらためて見て、なるほどキングだったのなら仕方ない。西洋人には宗教の関係で父親が絶対的権威として君臨するケースが、結構あるんである。こういう封建主義というのは日本的だと思ったら大間違いで、宗教の力を借りた権威というのは、父親の横柄ぶりを高めるものなのである。まあ、そういう驚きのあれこれを映画で観て楽しめるわけだが……。
もちろん、この父親リチャードさんは、単にわがままというのはあるが、基本的には金持ちになるために娘を使って登り詰めるために奔走するのである。娘たちが尋常でない力を秘めているのは途中で分かるが、その育て方は愛情の力を借りて、どんどん軌道を逸していく。それでも娘達や家族が必死に支えて、なんとか応えようとする力がさらに上回って、大成功の道を結局はたぐり寄せることができるのである。スゴイ。
テニス界というのはお金がかかるというのが、まず背景にある。そういう屋台骨を支えているのは、金持ちの白人たちである。おそらくだが、だから貧しい黒人の出である人々は、テニスでの成功をあきらめているのではなかろうか。しかしながら女子のスポーツ界で大金を手にできる世界は、それなりに限られている。リチャードさんは、自分はテニス経験が無かったにもかかわらず、娘の中からテニスに向いた特性を見出し、育て上げていくのである。そういう先見性というのは認めてもいいのかもしれないが、結果的に大成功しすぎるので振り返ってそういうことが言えるのであって、むしろこのやり方が娘たちの芽をつぶしたかもしれない可能性もありそうである。ほとんどギリギリそうならなかったのは、娘たちが結果的に純粋にテニスを愛し続け、自分たちで暴君の力を曲げるくらいの圧力を発揮できたからである。妨害が多くても、教育が悪くても人は育つという見本のような物語で、まあ滑稽だが見事なサクセス・ストーリーである。それもほとんど実話らしいから、観るものを本当に呆れさせる力がある。アメリカ人って本当に馬鹿でも凄いのだなと、日本人の僕は降参せざるを得ない。こんな人々に、僕らは勝てるわけが無いのである。