
彼岸花が咲く島に、ある日少女が流れ着いてくる。船が難破したのか、それにしてもどうして流れ着いたのか。理由は分からないが、傷ついて介抱されたのちに意識がはっきりしても、少女の記憶は元には戻らなかった。島は独自の様々な風習が受け継がれており、ノロと言われる司祭などを執り行う女性たちを頂上に据え、平和な暮らしをしていた。言葉も中国語なのか日本語なのか、はたまたどこかの強い方言なのか、よく分からないものだった。ただしノロが使っている言葉は、少なくとも日本語のようなのだった。
ミステリ要素は残るが、完全にミステリ作品というより、若い女性の成長物語と言っていいだろう。ふつうだと高校生くらいの人間が、将来を見据えて何を考えて生きていくかの選択を迫られる、という感じかもしれない。島の生活は、ノロという女系司祭たちが取り仕切っていて厳格性もあるものの、基本的には家族というものが必ずしも血縁ではない集団になっており、村社会も仕事の分担が上手く行っているようで、いわゆるのどかに平和が保たれている。しかしこのノロの行いには謎がかくされていて、島の生活の中の必需品に至るまで、島の外の社会に何か秘密が隠されている様子だ。それらの謎は徐々に解かれていくが、それを受け入れる人間の成長も必要になる、ということかもしれない。
著者は台湾出身であるが、文章は見事な日本語というほかない。実は先にそのことを知って、興味を持ったので読んだということだ。日本語を習得して描いた文章とは思えないくらい、実にこなれた上に、多言語の混ざった不思議な会話などを駆使して組み立てられた物語である。漢字の使い方なども独自の味わいがあり、物語のミステリ要素も含め、作品に深みを加えている。