かわせみ側溝から

志は低空飛行 

壮大な辞書はそれなりに変な人々が作る   博士と狂人



博士と狂人/PBシェムラン監督

 オックスフォード英語辞典の誕生秘話は、それなりに有名なので知っている人も多いと思う。これも当然原作があるはずで、しかしそれが種本かどうかまでは知らないけれど、この物語に関する逸話は多いと思う。かくいう僕もこのお話に関する本は持っていると思う。ちゃんと読んでなかったけど。
 名門大学がその名誉にかけて、どこよりも網羅的な単語を収めると意気込んで編纂に挑んだ英語辞典がODEである。当初その編纂の栄誉に服したマレー博士は、市井の研究者であるばかりか学士号も持たなかった。大学の重鎮からは偏見の重圧を受ける中、日々編集に臨んでいたが、ある時単語の語源に関する助言の手紙をもらう。送った主は精神を病んだ上に殺人を犯して服役している元軍医のマイナーだった。互いに問題はあるものの、二人の天才の力もあって、辞書作りは何とか進んでいく。しかしながら刑務所の中のマイナーの処遇には問題があり、精神は更にむしばまれていくのだった……。
 時代もあって、今ではとても考えられない偏見にみまわれた境遇にあえぐ姿が続く。間違って殺人を犯してしまうのもどうかとは思うが、殺した男の夫人からは事実上許されていく。しかし病状は進んでしまい、それすら受け入れることも難しくなっていく。辞書の編纂は進むが、何年もかかってやっとAとBくらいというありさまで、まったく気が遠くなる作業だ。単語や語源が多いというのは分かるけど、そんな辞書をつくって誰が使うんだろう(現在も編纂されているらしいが)。とはいえ、人間の限界に挑むチャレンジの歴史なのである。さらに多くは実話なのだ。
 熟練の俳優たちの演技合戦にもなっている。アクションスターだったメル・ギブソンや、どう考えても不良で悪ガキだったショーン・ペンが、超のつく頭の良い天才を演じている。なにかの皮肉にしか思えないが、それも時代なのである。実際頭脳的でなかなか迫力ある演技が続いて、見どころも多い。辞書の編纂なんて、見る分には地味なはずだが、これが面白いのだから不思議である(ドラマが面白いのだけど)。騙されたと思ったら観てみてください。