かわせみ側溝から

志は低空飛行 

恐怖と背中合わせの喜劇



 米国大統領選の共和党の候補として、実質上トランプ氏が指名獲得を果たしたという。民主党からは順当にクリントン氏があがってくる模様だが、ここでの最終決戦では、予想上8:2でクリントン氏とは言われている。これは日本での報道を真に受けてのものだが、トランプ氏の大統領になる確率としてはまだ低いものだという揶揄も含まれた数字だということも割り引いた方がいいのではなかろうか。
 あらゆるところで様々な解説が面白おかしく聞こえては来るのだが、昨年末にトランプ氏という候補もいて、意外と善戦しているけれど、結局は共和党の候補者になる可能性は限りなく低いという論法ばかりであったと記憶している。だからむしろ余裕をもってトランプ旋風が起こってしまうアメリカ社会を笑い飛ばすような風潮が、その根底には流れていた。トランプ氏が善戦しているというけれど、多民族国家である米国において、トランプ氏が選ばれない理由は様々あり、いわゆるアメリカの良心というものが機能している限り、指名獲得レースでは最終的に失速せざるを得ない候補者だとされていた。そういうことを受けて、やはり僕自身も、これはお笑いだという認識で見ていたきらいはある。僕が知っている限りの話だが、トランプ氏が共和党候補に選ばれる第一の候補だと素直に書いていたのは一人しかいなくて、それも政治の記者では無くマネックス証券松本大氏であった。その理由としては、現実としてトランプ氏が強いというのを素直に認めているということで、現実に強いのだからありうることだとするものだったと思う。さらにアメリカ人の今はアメリカだけのことを考えてハッピーだとする風潮があるのであって、世界の中のアメリカという位置をあまり考えない国内世論の高まりがあるのだということだった。たとえヒラリー・クリントンが大統領になったとしても、そのような声は無視できないもので、単純にトランプ氏が消えたとしても無くならない国内世論の姿であるということだった。
 そうしてそのような数少ない解説の方が、結局はやはり正しかったということの延長で、トランプ旋風は現在に至っているということなのだ。
 トランプ旋風というのはアメリカの世論の話ではあるが、これは日本の国内世論ということにも、確かに似た局面はあることを考えさせられる。日本だって保守勢力に限らず、いやそれ以外の勢力の方がむしろ、内向きの議論に終始し、国内問題を政府のみの責任として、国民の利益を最大化するために内向きだけの政策議論を展開する世論がそれなりに強い。結果的には日本の外交は小手先のものや先送りの繰り返しになっており、せっかく強い巨大な与党勢力でありながら、実は国内世論を完全に掌握できていない政治風景がある。さらに極左勢力の主張の米軍撤退の極論の話が、米国の極右の主張と同じになっているような皮肉なことになってしまっている。日米の安保条約の破棄や米軍撤退の可能性も、以前のゼロから数%以上の芽生えがあると考えてよく、そうなると逆に日本の軍拡や核兵器保有の道筋を、真面目に考え直す必要さえ出てきているとも言われている。憲法原理主義で解釈のみで法整備する危険性が、このように顕在化することは、本当に不幸なことではあるまいか。
 しかしながらこのような危機感を改めて喚起させる力のある現象がトランプ氏にはあり、現実的な政策としては、認識の誤りが多すぎて発言通りのことを、たとえ大統領になっても実行することは無いとは考えられるとはいえ、自らの発言の縛りを受けて、国際世論が揺さぶられる政策検討が、それなりになされるということも考えられるだろう。もはや北朝鮮を本当に米国は笑えるのか、というような喜劇ぶりなのだが、ここにきての日本の世論の受け止めは、さらに複雑な気分に突入したような感じである。
 まだ可能性は低いという見方をするマスコミの読みだけでこの模様を見守るのではなく、現実の可能性も吟味しながら、米国世論に対しても牽制の出来る準備をするべきではないのか。米国民が目覚めていない以上に、日本国民も寝ているようなものだ。ズラ疑惑のおっさんのコメディは(まあ、地毛らしいですけど)、日本の将来の悲劇であることは間違いない。そのような外交的な刺激無くして目覚めない国民の一人としては、まあ、それでもいいとはちょっとばかり思いはするのだけれど…(たぶんそれでも何も決めきれないかもしれないが)。