
飢餓海峡/内田吐夢監督
原作は水上勉で、作品そのものが名作として名高い。多少長いが、しかしこれでもかなりのダイジェストだとは聞く。印象としては、構成よくまとまっていると思う。サスペンスもどんでん返しも哀愁も、そしてラストの余韻も素晴らしい。時代背景と登場人物の隠された苦悩という点でも、なかなかのものであるばかりか、それぞれの俳優の演技も素晴らしい。特に喜劇役者の伴淳三郎のカッコ良さも光る。
殺人を犯してしまった人間を指して言うのもなんだが、基本的に主人公は善人なのだと思う。そういう善人だからこそこのような事件に発展してしまったということが、何よりこの作品の素晴らしさと恐ろしさなのだ。そうしてその善人にさらに殺人を重ねさせてしまうのも、ほのかな好意であったり感謝の念であったりするのだ。行き違ってしまっているのだが、しかしそのことが元で、過去の殺人まで明るみに出てしまうことになる。悲劇とサスペンスと謎解きが見事にからんで、名作となる訳である。
さらに刑事の執念的な正義感ということもある。刑事は必ずしも同情的に犯行を解いている訳ではない。プロとして非情になって謎を解いていこうとしているにすぎない。しかし事実が明るみに出ていく事によって、ある意味、犯人の苦悩が乗り移っていくようなものがあるのかもしれない。
そのように考えると、ラストの印象はかなり変わるのではあるまいか。あっと驚くが、しかしこれでよかったとしか言いようが無いではないか。少なくとも僕にはそのように思われた。戦後の貧困のことはよく知らない。しかし、このような社会にあって生まれた悲劇を、本当に生身の人間が裁く事が出来るのだろうか。そういう虚無感も含めて、ただ、物語が問いかけてくる。ミステリー作品がこのような社会派の訴えを持つのは、そのような描き方の問題なのだろう。面白い作品だが、だからつらい作品なのだ。
さらに下って戦後でもいい加減無くなってしまった今の時代に通じるか。そのことを考えるにも良い機会かもしれないのであった。