
風邪をひいて寝ている分には、具合が悪いのだから仕方がない。具合が悪くて寝ていたいという欲求の時にちゃんと寝ていられるのは、それなりにしあわせである。
ところがそれが日中である場合、少しばかり不安にかられるのである。今じっくり寝てしまうと、夜に眠たくなくなるのではないかと考えてしまうためらしい。日中具合悪くて寝ていたら、しっかり治ってしまった。しかし夜通し眠れなくなり、睡眠不足で目をはらして仕事に行くと、風邪が治って無いのではないかと心配された。などという話はよく聞くものだ。風邪が治るんならそれでもいいじゃないかという考えもあるかもしれないが、問題はそういうことではなく、眠れないという状態の退屈さが怖いのである。
夜中に寝られないなら夜ふかしをすればいいというのは道理だけれど、夜中に一人だけ起きていると、かえって家人に心配を掛けてしまう恐れもある。自分だけ眠れないのであれば自分だけ困ればいいのだけど、人を巻き込むというはさらに気が引けることである。
具合が悪くて寝ていると、うっかり十分熟睡ということはよく起こる。もちろんそれで治るならやはりもうけものだが、しかし風邪の状態は悪いままで、苦しいのだが眠たくないということがあるのである。苦しい時間が長くなる訳で、つらい拷問にあっているようなものである。さらに眠れないという精神的圧力は、思いのほかつらいものである。
酒でも飲んだらいいのかもしれないが、そういう状態で飲んでも大抵旨い訳でもない。特に僕のように体の弱い人間は、本当に体調が悪い時は、アルコールとの相性は大変に悪いような気がする。そういう時に好きな酒まで嫌いになるような事になるのは困る。僕は基本的に好き嫌いはそんなに無い人間であるが、たこ焼きだけは何となく苦手だ。それはたぶん子供の頃に、風邪で具合が悪いのにたこ焼きを食べた所為ではないかと思い当たる。本当に具合の悪い記憶とたこ焼きが結びついてしまって、食べてみると不味い訳ではないのだけど、だからと言って食べたい訳ではない。気持ちも悪くないのに、敬遠してしまうのである。
寝つきは悪い方では無い。しかし眠れない夜という設定はとてもつらい感じがする。そんなに経験したことが無いくせに、眠れないのが怖い。いつまでも眠れないという退屈な時間は、たとえ5分であっても耐えがたい苦痛なのだ。
せっかく眠れないのだから、この機会に自分の抱えている問題点の改善の見通しについて考えてみるのも良いと思うことがあったが、そんな時にそんなことをあれこれ考えるのは、あんがい精神衛生上も良くないような気がする。いわゆる悩んでいることを悩んでしまうような悪循環があって、問題点はちゃんと紙に書いて眺めて検討するというような戦いの準備をすべきという気がする。しかし起き上がってしまっては負けであるので、布団の中で何か他のことを考える必要がある。そうではあるが、ちょっと問題点のことを考えてしまったせいもあって、何となく落ち着かなく長い夜の格闘を続けなければならなくなる羽目に陥ってしまうのだ。
ということで昨夜はなんだか寝つかれなかったよ、などと話してみると、つれあいは怪訝な顔して、イビキかいて寝てたよ、などという。いや、寝られなかったんだよ、と言っても「ふーん」と構ってくれない。なんだか僕が嘘つきみたいであるが、そう言われてみるとぜんぜん寝てなかった訳でもない訳だし、寝られなかったという夢でも見ていたのかという気分にならない訳でもない。
しかしながら、やっぱり寝足りないという気分があって日中にちゃんと眠たくなる訳で、本当に寝られないということではないのかな、と思ったりする。寝られないという気分というのは、そうでない時間に考えてもどうしようもないのかもしれない。